溶接の仕事と聞くと「鉄骨を組む」「配管をつなぐ」といったイメージを持つ人が多い。でも実は、現場によって全然やってることが違う。
その中でも「製缶(せいかん)」は、板材を切って、曲げて、組んで、溶接して――最終的に“箱物”を作り出す仕事のこと。タンクやダクト、カバー、フレーム、ケース……身近な製品から産業設備まで、製缶品は世の中のあちこちで使われている。
ここでは、製缶の定義から現場の流れ、必要なスキル、品質基準やキャリアまでを、実体験も交えてわかりやすく解説していくよ。
製缶とは?
「缶」と聞くと飲料缶を想像しそうだけど、製缶の“缶”はもっと広い意味。
要は平板を立体物に仕立てる加工全般のことを指す。素材を切断し、曲げ、溶接で接合して箱や筒にする。業界によっては「板金」とほぼ同義で使われることもある。
- 食品プラント → ステンレス製のタンクや配管部品
- 化学プラント → 耐食性の高い槽やダクト
- 建機・産業機械 → フレーム・カバー類
- 造船や橋梁の補助部品 など
鉄骨や橋梁主体の「鉄工」と違い、板を主体にした構造物を作るのが製缶の特徴なんだ。薄板製缶と厚板製缶に分かれ、それぞれに求められる技術が違う。たとえば空調設備のダクト関連は薄板製缶、タンクや圧力容器は厚板製缶って感じ。
扱う材料と板厚の目安
製缶でよく使うのは以下の3つ。
- SS材(軟鋼):一般的な鋼材。安価で加工性も良い。
- SUS(ステンレス):食品や薬品関係に必須。焼け取りや仕上げが重要。
- アルミ:軽量部品や装飾用途。歪みやすく溶接は難易度高め。
板厚は1.5mmくらいの薄板から、25mm以上の厚板まで幅広い。
薄板は「歪み」と「焼け」が大敵。厚板になると「開先加工」「多層盛り」が必須になってくる。
製缶で使う溶接法
製缶で主力になるのはこの3つ。
- 半自動溶接(MAG/CO2)
スピードと汎用性に優れ、鉄系では主流。 - TIG溶接
薄板やステンレスに強い。美観や仕上げが重要なときに選ばれる。 - 被覆アーク溶接
野外や補修作業で使われることが多い。
案件によってはスポット溶接やろう付けも組み合わせることがある。
現場では「どの溶接法でいくか」を最初に決める判断力が大事。当然、各種溶接法のコラボも必要。
図面に溶接法まで記載されているケースは少ないので、歪み具合や目指す精度の具合から溶接法を選択していく。
仕事の流れ(実務フロー)
- 図面確認:溶接記号、公差、仕上げ指示を読み込む。
- 展開作業:板取り・収縮見込み・曲げ半径を考慮して展開図を作る。
- 切断:シャー、レーザー、プラズマなどで切り出し。
- 曲げ・ロール:ベンダーで角度出し、ロールで円筒加工。
- 仮付け・組立:歪みを見越した順序で治具に固定。
- 本溶接:入熱・変形をコントロールしながら溶接。
- 歪み取り:ハンマー、加熱矯正、プレスで調整。
- 仕上げ:ビード研磨、酸洗い、ヘアライン方向を整える。
- 検査:寸法確認、漏れ試験、外観チェック。
- 塗装・梱包:最終仕上げを経て出荷。
各工程で作業を分担するのが一般的だけど、複数の工程を一人でやる「凄い職人」がいる。
なんなら全行程一人でやる「ヤバい職人」もいる。
現場でよくあるつまずき
- 展開寸法の収縮見込みを間違え、組んだら寸法が合わない
- SUS製品で焼け取り不足 → クレーム直結
- 図面指示が物理的に不可能な溶接
- 段取りを軽視 → 大物が動かせず作業ストップ(吊り上げられない、反転できない)
展開寸法に縮み分を加えるのは大事、でもどのくらい?が難しいんだ。ベテランでも初見の仕事では即答しにくい所。普段の仕事で縮み具合いを意識していないと数値は出ない。完っ全に経験が物を言う世界。
SUS製品の焼け取り不足は、納期納期コストコスト言われてたらそりゃ起きますわ。大事な部分には違いないけど他の項目より目が甘くなっちゃう部分でもあるんだよね。
図面指示は神のごとく大事。でも「これ絶対無理じゃん!」はホントよくある。そこは事前の打ち合わせで解決できるんだけど、現場は行き当たりばったりが常。ムチャクチャ狭い場所の溶接や、歪み直しきれない部分の連続溶接とかホントご勘弁。
だから製缶は打ち合わせの「手間を惜しまない」ことが命。うまく出来ない事をうまく完成させるのが仕事だから。
品質と検査の基礎
製缶の合否は見た目だけじゃない。
- 寸法精度(直角度・対角寸法)
- 漏れ試験(浸透探傷試験(PT)、エアリーク、水張り)
- 外観検査(アンダーカット、ピット、ブローホール)
- 表面処理(酸洗い、バフ研磨やヘアーライン仕上げ、鉄なら塗装)
特に食品・薬品向けのSUSでは、仕上げの美観が評価を左右する。洗浄性などが理由の一つだけど、「え?これって工場見学の通り道に据え付けるの?」て言いたくなるくらい「見せる外観重視」の仕事もある。
安全衛生と設備
製缶は「粉じん」と「騒音」との戦い。
SUSの研磨粉やヒュームは防護具必須。クレーンや玉掛けを使う現場も多いから、資格は最低限揃えておかないと作業ができない。あと、忘れちゃいけないのが耳栓ね。
主な設備:
- ベンダー
- ロール成形機
- シャーリング
- レーザー・プラズマ切断機
- ポジショナー・反転機
必要スキルと向き不向き
- 図面読解力
- 展開・寸法感覚
- 仮付け・治具の工夫
- 溶接スキル+仕上げ感覚
性格的には「段取り好き」「細かい作業を丁寧にこなせる人」「上達の意欲がある人」が向いてる。慣れれば何でも出来るとは言え、大雑把な人や何も考えず作業したい人は苦労しがちになる。
キャリアと資格
- JIS溶接技能者評価試験(半自動、TIG、アーク)
- 玉掛け、クレーン、アーク溶接特別教育
- 板金CAD・展開ソフトの経験は評価大
製缶は“万能職人”が求められるから、幅広くスキルを積むほど収入にも跳ね返ってくる。ガチ。
求人を見るときのポイント
「製缶」と書かれていても、実態は工場によってバラバラ。
- 薄板中心か厚板中心か
- SUSが多いか、SSが多いか
- 溶接主体か、仕上げ主体か
- 単品多品種か、量産か
求人票の一行だけでは読み取れないから、面接で具体的に聞くことが重要。こちらからは、今は出来なくても将来的にはこうなりたいって意思はハッキリ伝えたい。
製缶工の平均年収は?(統計ベース)
項目 | 数値 |
---|---|
平均月収(所定内給与) | 28.5万円 |
年間賞与(ボーナス) | 62.0万円 |
推定年収 | 404万円 |
出典と前提:
・厚生労働省「賃金構造基本統計調査(直近公表年)」の職種「溶接工」や「金属製品製造工」を基準に、製缶に関わる工程を含む統計で近似。(信頼度:B)。
・地域や企業規模、残業・深夜・出張手当の有無で差が出る。数値は全国平均。
現場での幅(レンジの目安)
求人と実例から、経験年数・板厚・材質・現場/工場の違いで実勢レンジに開きが出る。
- 経験3~5年・普通鋼主体:350万円~420万円
- 厚板・ステン/アルミ・治具段取り可:400万円~480万円
- 造船やプラント据付に工程として関わる製缶(夜勤・出張あり):500万円超の事例あり
※造船・配管職そのものの相場は各分野記事で解説
年収が伸びやすい条件(考え方)
- 夜勤・交替勤務:上乗せ(係数×1.05〜1.20)
- 長期出張・現地据付:出張手当・日当で上乗せ
- 高難度材(厚板・ステン・アルミ・チタン)や治具設計:単価アップ
- 資格手当(JIS/WES/特別教育など):固定で上乗せ
- 段取り~検査対応まで一気通貫:評価が上がりやすい
相原から最後に
製缶の仕事は、一見ただの「普通の物づくり」に見えるかもしれない。
でも実際は、図面読解・展開・切断・曲げ・組立・溶接・仕上げ――すべての要素が絡み合う、総合力のいる溶接仕事だ。
歪みを読んで先回りする力、仕上げで美観を作る感覚、段取りで全体を回す工夫。これらを積み重ねていくのが、製缶職人の腕の見せどころ。つまり、ガチで面白いんだよ。