ボイラー溶接士は、労働安全衛生法で決まっている溶接作業で唯一の国家資格。
名前だけ聞くと「試験に合格すれば一人前」みたいなイメージがあるけど、実際はそんなに甘くない。資格はあくまでスタート地点で、この先、現場で求められる品質と納期を両立してこそ一人前ってやつだ。
今回は、ボイラー溶接士の資格のことから、実務のリアル、試験対策、そしてキャリアまで、現場目線でまとめていくよ。
ボイラー溶接士とは?
ボイラーや第一種圧力容器など、中に圧力がかかる製品を溶接するために必要な国家資格。
こういう製品は工場のプラントや船、発電所なんかで使われていて、もし溶接部に不良があれば重大事故に直結する。だからこそ資格制度で一定の技術レベルを担保してるってわけ。
特別ボイラー溶接士
- 全てのボイラー・第一種圧力容器の溶接OK
- 板厚や圧力に制限なし
- 上級資格で、持ってれば現場での信用はかなり高い
普通ボイラー溶接士
- 板厚25mm以下のボイラー・第一種圧力容器の溶接ができる
- 管台やフランジの溶接も含む
- 「普通」なんて名前だけど、取るにはそれなりの努力が必要。まずはここからがスタート
受験資格
特別ボイラー溶接士
- 普通ボイラー溶接士免許を取ってから、1年以上ボイラーや第一種圧力容器の溶接作業をしてる人
普通ボイラー溶接士
- 1年以上の溶接作業経験がある人
ガス溶接や自動溶接の経験は、何年やっても受験資格の「溶接経験」には含まれないから注意。
試験の基本
学科試験と実技試験に分かれていて、学科に受かってから実技を受ける流れ。
試験日程
- 学科:年2回の受験が可能。全国の安全衛生技術センターで実施。
- 実技:学科合格から約1か月後に実施。
学科については、溶接協会が受験準備講習会を行っているよ。
住んでいる地域を管轄する溶接協会に問い合わせれば、日程や内容が分かるはず。
(ちなみに管理人、これ受講したのに1回落ちた経験あり…油断は禁物)
学科試験科目(特別・普通共通)
- ボイラーの構造と材料
- 工作と修繕方法
- 溶接施行方法
- 溶接棒と溶接部の性質
- 溶接部の検査方法
- 溶接機器の取り扱い
- 溶接作業の安全
- 関係法令
問題数は40問、5択問題。制限時間は2時間30分。正解率60%(24問)で合格。
普段から溶接やってても、この試験範囲は知らない事だらけのはず。試験用に覚えることは多いけど、一度覚えればその後の現場でも役立つ知識ばかり。気にせずやっていた作業の意味や発言力が増すよ。
実技試験
- 特別:被覆アーク 横向き突合せ 板厚25mm 60分
- 普通:被覆アーク 下向き・立向き突合せ 板厚9mm 合計60分
時間は、仮付けでアークを出した瞬間から溶接完了後の刻印までが計測対象。
現場じゃTIGや半自動を使うことも多いけど、試験は被覆アークのみ。
だから普段やらない人にとってはかなりの曲者。条件に従うしかないので、とにかく練習あるのみ。
合格率と難易度
最近は高校生や女性の受験者も増えてきてる。
データを見ると、学科・実技ともに合格率はおおむね60%以上。特別の実技は90%以上。
数字だけ見ると「簡単そう」に思えるかもしれないけど、普段から試験に近い作業をやってる人はそりゃ有利。9割が受かる特別は超簡単じゃなくて普段から厚物に慣れてて余裕って事。逆に普段は関連の薄い作業をやっていて、ゼロから試験対策を始めたらそれはもう、かなりハードル高め。
勉強法と実技対策
- 学科:過去問を繰り返して出題傾向をつかむ。法令や安全衛生は暗記でOK。
- 実技:本番と同じ板厚・開先で練習。条件出しを早めに決めて、層間温度やビード形状を安定させる。
実技は反復練習、学科は丸暗記。正直これくらいの気合いが必要。運任せは通用しない。
仕事内容と現場のリアル
資格を持ってると、どんな仕事を任されるのか。
ボイラー溶接っていうのは、一言で言えば「検査を通すための溶接」をする仕事だ。それが有資格の意味する所。
主な母材と板厚
材質は使用圧力や温度で変わってくる。使用箇所により変わる事もある。
ボイラー本体でよく使われるのは炭素鋼や高張力鋼だけど、ステンレスや低合金鋼も箇所により使われる。
圧力容器でよく使われるのは炭素鋼、低合金鋼、ステンレス、アルミ、ニッケル、炭素繊維強化プラスチックなど。
溶接法の使い分け
- 被覆アーク(SMAW):現場補修や狭い場所に向いている点と、材質に適応する溶接棒が用意しやすい。
- 半自動(MAG/CO₂):幅の広い肉盛り箇所、スピード重視の時に使用する事が多い。溶接の質を保つなら高度な技術が必要。
- TIG:ルートや仕上げで品位を出す時に有効。初層だけTIGは定番。小さい脚長や細かい箇所が得意。溶接金属の気密性が最も優れている。
- SAW(サブマージアーク):厚板の長手溶接で本領発揮。ロボット溶接並の設備と仕上がり。工場内の設備の一部なので、出張現場では不可。
作業姿勢と開先
下向き・立向き・横向き・天井向き…全姿勢アリ。
開先形状はV、X、Uなどで、精度の高い加工が必要。
検査
- VT(外観)
- PT(浸透探傷)
- UT(超音波探傷)
- RT(放射線透過)
ボイラーや第一種圧力容器はRTと破壊試験がある。
向き不向き
向いてる人
- 準備や記録をちゃんとできる
- プレッシャーの中でも落ち着ける
- 検査に合格したときの達成感が好き
向いてない人
- 条件や段取りを軽視する
- 焦って作業を変えてしまう
- 体力がない
ボイラー溶接士の年収相場は?(推定値)
ボイラー溶接士の収入は、所属する企業や現場の規模、さらに保有資格や経験年数によってかなり幅がある。
ここでは、統計と実例から読み取れるおおよその相場感を紹介するよ。
項目 | 数値 |
---|---|
平均月収(所定内給与) | 約30万円〜35万円 |
年間賞与(ボーナス) | 約60万円〜70万円 |
推定年収 | 約420万円〜490万円 |
出典と前提:
・厚生労働省「賃金構造基本統計調査(直近公表年)」の職種「金属溶接・溶断従事者」を基準に、ボイラー溶接に関わる工程を含む統計で近似(信頼度:B)。
・地域や企業規模、残業・深夜・出張手当の有無で差が出る。数値は全国平均。
・求人サイトや業界資料をもとに、職種別の傾向も反映して補足。
現場での年収レンジ(実勢目安)
- 経験5年以上(一般案件):500万円〜800万円
- 特別ボイラー溶接士(高難度案件対応):700万円〜1000万円超
- 独立:800万円〜1500万円の報酬例もあり(技術・設備・人脈次第で差大)
年収が伸びやすい条件
- 特別ボイラー溶接士の資格
→ 難易度の高い溶接や25mm以上の板厚溶接が可能になるため、単価が高くなりやすい。 - 実務経験とスキル
→ 特に厚板・高圧容器の溶接経験があると、責任ある仕事を任されやすくなり、収入アップに直結。 - 関連資格の取得
→JIS溶接技能者評価試験の種別記号(例:SA-2V、N-3H、C3-Pなど)、V、H、Pの記号が付く各種資格を併せ持つと、職域が広がり、手当や案件単価が上がる傾向。
- 常用工:月25〜35万円
- 出張工事:手当込みで50万円以上もあり
- 元請は安定型、下請は短期高収入狙い
資格があって実際にボイラーや圧力容器を作るなら、溶接の中でも高収入につながりやすい。
転職のときは、「材料×板厚×姿勢×検査合格実績」をアピールすると強い。ハッタリは通用しないから自信ある事を強調しよう。
ボイラー、圧力容器ともに本体以外にも配管や架台の溶接などもあるからやる事は多用。会社により分担は様々だけど何でも出来る人材が重宝されるよ。
相原から最後に
まず受験を目指す人は、試験は年に2回しか受けられないし、学科と実技の間はたった1か月。合格するには、学科は早めに固めて、実技は本番条件で何度も練習すること。
合格したら、段取りと条件出しをおろそかにしない。この2つをやれば、この資格は“生きた武器”になる。ボイラー溶接士は、試験に受かって終わりじゃない。
その先の現場で「お、こいつの溶接は安心できるな」と思われるかどうか、そこが本当の勝負どころ。
ボイラーの現場は楽じゃないけど、検査に一発合格したときのあの感覚は他じゃ味わえない。他所で数えきれない溶接を見てきたボイラー協会の検査員に「この溶接、上手いね」と言われた日にはもう、脳内で何かよく分からないけど気持ちいい成分がドバッと放出される。その感覚を知ったら、きっとこの世界にハマるはずだ。
でね、やっぱり言わせてもらうけど…この仕事、カッコいい。