溶接の仕事の種類は数多くあるけれど、花形と言ったら「配管溶接」がまず思い浮かぶ。
工事現場でバチバチやってる溶接とはまた別物の難しさと奥深さがあるんだ。
配管は中を液体やガスが通る。だから見た目の仕上がりより、中の溶け込みや気密性が命。
見た目がきれいでも、中に欠陥があれば一発アウト。検査でNGが出たら、再溶接ややり直しになる。
そういう厳しさも含めて、配管溶接は職人の腕が試される仕事なんだ。
配管溶接ってどんな仕事?
簡単に言うと、パイプ同士をつなぐ溶接のこと。
現場はプラント、造船、発電所、食品工場、化学工場、ビルの空調設備まで、いろんな場所に広がってる。
材質も炭素鋼、ステンレス、耐熱鋼、ニッケル合金など現場ごとにバラバラ。
使う溶接方法も、TIG、被覆アーク、半自動…時にはガス溶接や溶断も組み合わせる。
鉄骨みたいに自由に動かせるものじゃなく、固定された状態で全姿勢溶接をするのが当たり前。
だから、腕だけじゃなく体の使い方、道具の選び方も重要になってくる。
高圧配管になるとどう変わる?
同じ配管でも、高圧配管になるとさらに技術レベルが上がる。
高温・高圧の蒸気やガスを通す配管は、規格も検査基準も格段に厳しくなる。
- 検査の厳格化:全線RT(X線検査)やUT(超音波検査)がほぼ必須。合格率を上げるには溶接の精度がシビア。
- 溶接条件の厳守:予熱・後熱管理、パス間温度の制限など、施工条件が細かく決まっている。
- 材料の特殊性:耐熱鋼や高合金鋼など、溶け方や熱の回り方が普通鋼と全然違う。
- 施工記録の管理:誰がどの時間に溶接したかまで記録される場合もある。
高圧配管の現場は、ただ溶ければいい世界じゃない。
ミスや欠陥があれば、運転中に事故や爆発につながる危険性があるから、技術者も検査員も真剣そのものなんだ。
現場の流れ
配管溶接の1日の流れは、大体こんな感じ。
- 図面・アイソメ図の確認
流れや方向を間違えたら大惨事。まずは頭の中で全体像を組み立てる。 - 材料の切断・開先加工
サンダーや切断機で切って、ルート間隔も管理。ここでズレると後が地獄。 - 仮付け溶接
位置や角度をしっかり出す。仮付けが甘いと、本溶接で歪みやすい。 - 本溶接
立向き、横向き、仰向け…固定配管は逃げ場なし。全姿勢対応が必須。 - 検査
VT(外観)、PT(浸透探傷)、RT(X線)、UT(超音波)など。
「中が見える」検査が多いから、誤魔化しは絶対できない。 - 据付・現場調整
現場搬入後に最終溶接をすることも多い。狭い場所での姿勢制限は日常茶飯事。
配管溶接の難しさ
- 固定全姿勢:位置が動かせないから、苦しい姿勢での溶接も多い。
- 厳しい品質基準:中の欠陥はすぐバレる。特にX線検査はごまかせない。
- 熱ひずみ対策:薄肉ステンレスは特にシビア。
- 狭所作業:プラントや船の中は、本当に身動きが取れないこともある。
現場によっては「溶接棒を短く切らないと振れない」「狭い裏側で直視できないから鏡を使って溶接」「利き手だと出来ないから反対の手で」なんて言い出したらキリが無いくらいある悪条件も日常茶飯事で、もうそれが普通。
必要なスキル
- 資格:JIS溶接技能者評価試験の種別記号(例:TN-P、C-2P、SA-3Pなど)、Pの記号が付く配管向け資格。
- 図面読解:特にアイソメ図の理解が必須。
- TIG技術:ルートパスの精度は配管溶接の生命線。ローリング法を多用するけど、ストリンガ、ウィービングも習得。厚肉なら半自動、被覆アーク溶接の技術も必要だけど初層は漏れの起きにくいTIGが多い。
- 開先・ギャップ管理:特に裏波溶接は、溶接前の準備で仕上がりが8割決まる。ここは疎かに出来ないポイント。
- 姿勢対応力:どんな格好でも溶接できる柔軟さ。中腰大股腕伸ばし条件とか。(膝ガクガクしちゃ駄目)
品質基準と検査
配管溶接では、検査基準が他の溶接よりも厳しい。
特に内部欠陥は一発でバレるから、作業中から「検査に通る溶接」を意識することが大事。
- VT(外観検査):見た目の欠陥をチェック
- PT(浸透探傷):表面の割れやピットを検出
- RT(X線検査):内部の溶け込みや欠陥を確認
- UT(超音波検査):内部の欠陥や溶け込み状態を測定
合格できなければ再溶接。手間もコストもかかるから、一発合格が職人の誇り。
配管溶接の業界は横の繋がりが広いので、RTで落ちまくると悪い意味で有名人になる。
逆に毎回検査一発合格だと、業界で“ゼウス扱い”される。
配管溶接工のキャリアと待遇
プラントや発電所の配管工事は、出張・残業が多いけど、その分稼げる案件が多い。
日当単価も高めで、資格や経験がダイレクトに給与に反映されやすいのも特徴。
独立して一人親方になる人も多く、うまくやれば年収1000万円超えも珍しくない。
ただし、その分責任も重く、スキルと信頼がなければ仕事は続かない。
とは言え、凄腕一人親方の存在率が高い業種なのは間違いない。
会社員でも配管溶接工の給料は比較的高めに感じられる。
現場あるある
- 現場で溶接より脚立の使い方で怒られる
- 普段空冷トーチなのに、たまたま水冷トーチでやる場合、まるでゴムの大縄のようで上手く扱えない
- 「あと1ミリズレたら溶け込み不足」みたいな緊張感は当然、家でご飯食べてても「あの時の溶け込み大丈夫か…」と思い返す
- 元気に出社、やる気MAXの所、検査員の一言で全てやり直し
- 狭すぎて体が入らないから頭だけでもと思っても被り面が邪魔、布面に変えてもまだ辛い、で黒ガラスを一回り大きい段ボールに装着して自家製サングラスで溶接——夜、溶接焼けで悶絶。
配管溶接工の平均年収は?(統計ベース)
厚労省の統計をもとに、**職種「配管工」**の全国平均から、平均月収×12+年間賞与で推定年収を算出する。
項目 | 数値 |
---|---|
平均月収(所定内給与) | 29.4万円 |
年間賞与(ボーナス) | 64.0万円 |
推定年収 | 417万円 |
出典と前提:
・厚生労働省「賃金構造基本統計調査(直近公表年)」の職種「配管工」を基準に、配管に関わる工程を含む統計で近似(信頼度:A)。
・地域や企業規模、残業・深夜・出張手当の有無で差が出る。数値は全国平均。
・プラントや造船現場など特殊案件では、危険手当や出張日当が加わり高収入の傾向あり。
現場での幅(レンジの目安)
求人と実例から、現場種別や溶接方法、資格の有無で実勢レンジに開きが出る。
- 一般建築配管(経験3〜5年):370万円〜440万円
- プラント配管・厚肉ステンレス配管:420万円〜600万円
- 高圧ガス配管・造船配管・長期出張案件:700万円超の事例あり
年収が伸びやすい条件(考え方)
- 高圧ガス・危険物系資格:固定で上乗せ
- 夜勤・交替勤務:係数×1.05〜1.20
- 長期出張・海外案件:出張手当・日当で大幅上乗せ
- 材質別スキル(二相ステンレス・異材溶接・ハステロイなど特殊合金):単価アップ
- TIG+半自動+被覆アークができる:案件幅が広がる
相原から最後に
配管溶接は、全姿勢・高精度・厳しい検査…三重苦みたいな世界だけど、
その分やりがいと達成感は大きい。最初にも書いたけど溶接界の「花形」なんだ。
特にTIGのルートパスを一発で決めたときの快感は、配管溶接ならでは。
いや、ホントは極上のビード外観を誰かに見てもらってる時が至福のひとときかもしれない。
SNSでも溶接自慢は大体配管屋さんだしね。
初心者はまずTIGや被覆アークの基礎を固めて、少しずつ狭所や全姿勢に挑戦していくのがおすすめ。
配管溶接の世界は甘くないけど、そのぶん職人としての価値はとても大きい仕事だよ。