金属を溶かす、というもっとも原始的なやり方──それがガス溶接だ。
アセチレンと酸素の炎で金属を熱し、溶かしてつなぐ。今ではTIGや半自動溶接が主流になったが、それでもこの“火の技術”は現場のあちこちでまだ生きている。
「古い技術」と思われがちだけど、実はガスでなきゃできない仕事って、意外と多いんだ。
ガス溶接の基本原理
ガス溶接は、酸素と可燃性ガス(代表的なのがアセチレン)を混合して点火し、その高温の炎を使って金属を加熱・溶融する溶接法だ。
このとき、酸素とアセチレンの比率で「中性炎」「酸化炎」「還元炎」と炎の性質が変わる。
中性炎(酸素:アセチレン=1:1)
最もよく使われる。溶接・ろう付けに最適。
酸化炎(酸素多め)
金属を酸化させやすく、切断用途などに使う。
還元炎(アセチレン多め)
酸化を防ぎたい場合や、ろう付けで使う。
この火のコントロールこそ、ガス溶接のキモ。まさに“溶接職人の勘どころ”だ。
使用される道具たち
ガス溶接に使う道具は、構成がシンプルでありながら奥深い。
道具 | 役割 |
---|---|
酸素ボンベ/アセチレンボンベ | 燃焼に必要なガスを供給 |
減圧器 | ガスの圧力を調整 |
ホース | ボンベからトーチへガスを送る |
ガス溶接トーチ | 炎を出すための道具 |
溶加棒 | 金属をつなぐための材料 |
火口(ノズル) | 炎の種類や作業内容で交換可能 |
どれも基本的だけど、扱いを誤れば危険。特にアセチレンは爆発性が高いので、保管や取り扱いには注意が必要だ。
どんな場面で使われているのか?
正直、今の時代ガス溶接の出番は減ってきた。けど、それでも「ガスじゃないとできない作業」がいくつかある。
◆ 配管などの現場溶接(特に薄板)
薄い銅管や鉄板などは、TIGや半自動だと焼きすぎてしまうことがある。
ガスなら低温でじわっと溶かすことができるので、繊細な溶接に向いている。
◆ 鋳物の修理や補修
割れた鋳物をTIGでやると気泡が出たり合わなかったりする。
その点、ガス溶接は金属の流動性を高めてなじませる力があるから、鋳物の補修に重宝される。ただしその技術はMAXレベル。なんとなく付いてるだけなら良いけど、本当にちゃんと均一に溶接するのは一握りの人しか出来ない。
◆ 美術やアートの金属加工
彫金やアート系の作品でも、柔らかな炎で加工できるガス溶接は根強い人気。
音も静かで、トーチの取り回しも良いため、“感じながら溶かす”ことができる。
現場目線で見る「ガス溶接あるある」
ガス溶接の経験がある人なら「わかるわ〜」ってなる、ちょっとした現場ネタも紹介。
あるある | 補足コメント |
---|---|
火をつけたとき「ボッ!」と音がする | 初見だとビビる。でも慣れると「おっ始まったな」ってなる。火消した時の「パンッ!!」も恐怖。 |
風があると火が消えてキレそうになる | 風防がないと話にならない。屋外作業の天敵。火力強めて消えないように〜が大失敗を生む。 |
ホースが引っかかってイラッとする | 「があああぁ!」ってなるやつ。長さと配置がカギ |
火花が出ないから地味に見える | でも地味に見えて、めちゃくちゃ神経使ってる。なんか職人ぽい俺ってかっこいい。 |
ガス溶接に必要な資格と保安講習
ガス溶接を業務で行うには、「ガス溶接技能講習」の受講が必須。
これは労働安全衛生法に基づく講習で、2日間で学科と実技を学び、修了証が交付される。
なお、ガス切断(火口の交換や点検含む)も同じ資格でカバーされる。
逆に、資格がないと事業所では作業ができないので要注意。
これからのガス溶接の立ち位置
正直に言えば、産業の主流からは外れてきている。
だけど「火を見て、感じて、溶かす」というガス溶接の原始的な操作感は、他のどの溶接にもない魅力。
熟練者が少なくなっている今だからこそ、あえてガスを選ぶという選択肢もある。
薄板の仕事、鋳物の補修、アート制作──そんな現場で静かに活躍する“炎の技術”、それがガス溶接なんだ。