「ビードはきれいについてるのに、なんかおかしい」
そんなとき、目をこらして見ると──母材同士がズレていて、段差ができている。
これが「目違い(めちがい)」と呼ばれる溶接不良。
パッと見では溶接そのものに問題がないように思えても、構造的には大きなNGにつながる可能性がある。
この記事では、目違いとは何か?なぜまずいのか?防ぐためにできることまでを解説していく。
目違いとは何か?
目違いとは、溶接する母材同士の位置がズレており、接合部に段差が生じてしまっている状態のこと。
これは溶接自体の欠陥というよりも、溶接前の準備・段取りのミスや不注意によって生まれる、いわば「溶接工程で起きる寸法不良」に近い。
たとえば板同士を突き合わせたとき、下の板が少し出っ張っていたり、逆に奥まっていたり
そんなズレがそのまま溶接されてしまうと、「目違い」の完成というわけだ。
なぜ目違いは危険なのか?
見た目は「ちょっとしたズレ」で済むように思える目違い。
でも構造物として考えると、想像以上に重大な欠陥になりうる。
● 応力集中が発生しやすい
段差のある部分に荷重がかかると、応力がその角に集中してしまう。
それがクラック(割れ)や破断の原因になってしまうこともある。
● 製品精度が落ちる
目違いがあると、寸法が設計からずれるため、製品全体の精度にも影響する。
機械部品などでは、加工後の取り付けができなくなることも。
● 美観が悪い
見た目の段差は、品質管理上の指摘対象にもなる。
とくに外観重視の製品ではNG評価を受けやすい。
目違いの原因とは?よくあるパターン
目違いのほとんどは、溶接する前に防げたはずのことばかり。
代表的な原因を表にまとめてみよう👇
原因 | 具体例 |
---|---|
仮付けのズレ | 突き合わせの位置がずれたまま固定されている |
クランプの不備 | 片側しか固定しておらず、歪みが発生 |
溶接熱による引っ張り | 溶接の順番や熱の偏りで一方が引っ張られる |
治具の精度不足 | 製品を固定するための冶具が正確でない |
目視確認不足 | 段差に気づかずそのまま本溶接へ |
写真で見る「目違い」実例

上側の母材が少し前に出ていて、ビードはきれいでも段差が見える
一見すると「盛りのクセかな?」と思うけど、よく見ると板そのものがズレてる
他の不良との違い:よくある誤解
目違いと混同されがちなものに、以下のような不良がある👇
誤認しやすい不良 | 見分け方 |
---|---|
成形不良 | ビードの形が悪いだけで、母材は揃っている |
過剰盛り | 溶接金属の盛り上がりだけで、段差とは別 |
歪み(そり) | 部材全体が曲がっている場合もあるが、段差とは異なる |
目違いは「溶接される前からズレている」ことが最大の特徴なんだ。
目違いを防ぐには?段取り8割
目違いは、「始める前」にほぼ決まっていると言っても過言じゃない。
防止するための具体的な対策をチェックしておこう👇
● 仮付けの位置をきっちり決める
一点留めでなく、複数点で固定して位置ズレを抑える
● 治具やクランプを正しく使う
垂直・平行を出すための治具精度も大切
軽く当ててから締めるなど、力加減も要注意
● 熱順序・溶接順を工夫する
片側から溶接していくとズレやすい
バランスよく対称に溶接を進めると歪みが出にくい
● 作業前・作業中に目視確認
溶かせばくっつく」ではなく、「ズレてたら終わり」の意識で臨む
現場あるある:「なんでズレてんの?」の正体
「治具がちょっと曲がってた」→地味だけど起きがち
「仮付けが甘かった」→1点止めでピボットしてズレてたパターン
「そっちは押さえてなかった」→“まさかの片締め”系ミス
「見たときは合ってた」→溶接熱で引っ張られて後からズレた…
ズレたままビードを乗せてしまうと、あとからどうしようもない。
目違いは事前対策と現場の気づき力がすべてなんだ。
最後に:ビードがキレイでも“ズレてたら台無し”
目違いは、ビードそのものには欠陥がないことも多く、「うまくできたつもり」になりやすい不良だ。
でも実際には寸法・精度・強度、どれも大きく影響を受ける。
「溶接は見た目だけじゃない」──
その言葉を、目違いほどよく表している欠陥はないかもしれない。
地味だけど、見落とせない。だからこそ、ちゃんと段取りして、ズレのない溶接を積み重ねていこう。