オーバーラップとは?“乗っかるだけ”のビードが危ない理由と対策

溶接で「ちゃんとくっついたはずなのに、なんか強度が出てない」っていうこと、ある。
その原因のひとつがオーバーラップ(overlap)。
ぱっと見ではしっかりビードが盛り上がってるように見えるけど、実は母材ときちんと溶け込んでいない、つまり“乗っかってるだけ”の状態になってしまっている欠陥なんだ。

この記事では、そんなオーバーラップについて、原因・見分け方・対策・現場でのあるあるまで、詳しく紹介していく。

オーバーラップとは何か?

オーバーラップとは、溶接金属(ビード)が母材に十分に溶け込まず、ただ表面に乗っかっているだけの状態のこと。
簡単にいえば、接着剤を使わずに何かを貼りつけたような、そんな感じ。

表面はつながっているように見えても、内部的には「くっついていない」状態に近い。
これでは構造上の強度は期待できないし、荷重がかかったときにビードごと剥がれる危険性がある。

溶接強度ゼロの“なんちゃって接合”──それがオーバーラップなんだ。

なぜオーバーラップは危険なのか?

オーバーラップの怖さは、見た目で判断しづらい点にもある。
以下のようなリスクを抱えている:

強度不足:応力がかかったときに簡単に割れ・剥がれが起きる

見逃されやすい:ビードがきれいに盛られていると、一見正常に見える

破断位置の不確実性:母材とビードの界面が不安定なため、破損位置が予測しにくい

つまり、「ちゃんと溶接したはずなのに壊れた」という事故につながりやすい。

オーバーラップが発生する原因とは?

オーバーラップは、熱不足や溶融金属の流しすぎが主な原因。
以下に代表的な原因をまとめてみよう。

原因詳細
熱入力不足電流・電圧が低く、母材が十分に溶けない
トーチや棒の角度不良母材との角度が浅く、溶融金属が乗っかるだけになる
ワイヤの送りすぎ金属が供給されすぎて、盛りが厚くなりすぎる
溶融池の制御不足トーチの動きが遅すぎて、金属が流れすぎる
姿勢が悪い上向きや横向きなど、重力の影響で垂れやすい体勢で無理をする

写真で見るオーバーラップの実例

画像では、ビードの端が母材に乗っかっているが、溶け込んでいないのがわかる。
とくに“ビードのふち”がモコッと盛り上がっていたら要注意。

他の欠陥と間違いやすい例

オーバーラップと間違いやすいのが、次のようなケース

間違いやすい欠陥見分け方
過剰盛り溶け込みは正常でも、ビードが過剰に大きいだけ。断面で違いが出る。
アンダーカットオーバーラップは“盛りすぎ”、アンダーカットは“削れすぎ”。逆方向。
波形不良ビードが不安定でも、溶け込んでいればオーバーラップとは異なる。

オーバーラップを防ぐには?

オーバーラップを防ぐためには、しっかりと熱を入れ、正しいトーチ角度で作業することが大切。
具体的には以下の対策が有効だ。

● 熱入力の最適化

アンプ設定を適正に

早すぎず遅すぎないスピードで

● トーチ操作を意識

角度を立てすぎず、押し気味に

溶融池が流れすぎないように注意

● ワイヤ量の制御

半自動ならワイヤ送り速度を抑える

TIGなら棒の投入量を調整する

● 施工姿勢を工夫

横向きや上向きの際は特に慎重に

できれば重力に逆らわない姿勢で

現場あるある:オーバーラップのやらかし

ビードがキレイに見えても、引っかかって剥がれる「ハリボテ溶接」

隅肉で横着したら母材にまったく溶け込んでなかった

焦って盛ったら「上に乗っただけ」だった

「肉厚にしとけば大丈夫」と思ったら逆にオーバーラップだらけで検査落ち

最後に:見た目の安心感に惑わされるな

オーバーラップは、溶接ビードが存在する=強度があるという先入観を打ち砕く存在だ。
むしろ「見た目が整っているように見えるのに、実は強度がゼロ」──これこそが最大の落とし穴。

ビードを太くすれば安心、厚く盛れば強い。
そう思っていた自分を振り返りながら、本当に“くっついている”かどうかを、常に意識して溶接していきたい。