最初に「溶接女子」に出会ったときのことは、今でもハッキリと覚えている。
仕事をもらっているメーカーの新人溶接工が挨拶に来るという。
いつもハイテンションの課長が「こちらが新入社員っでーーす!」くらいの勢いで来る。
「もうそんな時期かぁ」くらいの気持ちで待っていると
事務所のドアが開き、三人の作業服姿が並んだ。
その中に、女性が一人。
……いや、いたはずなんだ。
でもその瞬間は、僕は彼女を「女性だ」とはまったく思わなかった。
その日は同行した課長がハイテンションで紹介して、3人はただの顔見せだけで終わり。
だから3人の印象は正直に言えば、「でかいイケメンと、軍人みたいな奴と、少し小柄で可愛らしい顔立ちの男の子」くらいの認識だった。
シワすらない真新しい作業着、
言われたから来ました、って立ち姿。
技術の話をしても、まだピンと来る段階じゃないな。
だからその日は、深掘りして聞くこともなかった。
そこから2ヶ月後、指導を頼まれて工場で再会したんだ。
そこで初めて、僕は自分の認識を修正することになった。
「あ、よろしくお願いします」
その声を聞いて、あれ?と思った。
少し高い。
マスク越しに見える目元を見て、ようやく心の中で叫んだ。
(は? 女性じゃん!全然気づかなかった……え?マジか!)
顔には一切出さず、「もちろん!もちろん最初から分かってましたよ〜」という顔で、平然と指導を始めたけれど、内心は自分の勘違いにかなり動揺していた。その日はそれで頭がいっぱいなくらい。
今思えば、彼女が男っぽかったわけじゃない。
今、街中で会えば、間違いなく一目で女性だと分かる。
原因は、僕の側にある。
「溶接工=男」という、あまりにも強固な先入観だ。
火花が散り、重い鉄板を担ぐ現場に、無意識のうちに性別のフィルターをかけていた。
相手ではなく、僕の認識の問題だったんだ。溶接30年以上経験してきて初めてだったから、フィルターもブ厚かったんだ。
現場では、彼女は主に薄物の溶接や、細かい箇所の仕上げを任されていた。
それを見て「女性だからって、力仕事から外すのは差別じゃないか」と言う人もいるかもしれない。
でも、現場の人間として言わせてもらえば、それは「差別」ではなく「適材適所」だ。
平均的な筋力差がある以上、無理な仕事を振るほうが事故のリスクを高めるし、不誠実だ。
大切なのは、彼女がその「任された仕事」で、しっかりと結果を出していたことだ。
軍人みたいな奴の隣で、ひょろっと立っていた子が、1年後には誰よりも綺麗なビードを引くようになっていた。驚くほど真っ直ぐで、等間隔に並んだ美しいウロコだった。
軍人は軍人で相変わらずパワー系の仕事を任されていたから良し。
別に女性だから繊細だなんて一括りにするつもりはない。
雑な女性もいれば、驚くほど丁寧な男性職人も山ほど見てきたから。
ただ、彼女は自分の特性と道具の扱いを理解し、
その繊細な作業を完璧に「仕事」として成立させていた。
正直に言うと、男ばかりの現場に女性が一人入るだけで、空気は変わる。
怒鳴り声が少し減り、男たちは無意識に背筋を伸ばし、
言葉を少し選ぶようになる。
そんな男たちの心の声はわからないけど、何かやる気スイッチが入るのかもね。
それを「色目を使っている」なんて斜めに見る必要はない。
ただの純粋な人間反応だ。めちゃくちゃいい傾向とも思う。
現場に新しい風が吹き、少しだけ品格が上がる。
それだけで十分な価値がある。
でも、そんな「物珍しさ」や「謎のドキドキ」なんて、現場に馴染めば当たり前になって消えてしまう。
それなら溶接女子は「腕」と「姿勢」、そして「どれだけ仕事に向き合っているか」で男を翻弄してほしい。
今、溶接の世界は変わりつつある。
設備は軽くなり、技術の進化で力任せの作業は確実に減った。
かつての「3K(きつい・汚い・危険)」というレッテルも、
少しずつ過去のものになりつつある。
だから、女性が増えてきた。
それはブームや流行りじゃない。
この仕事が、性別を問わず
「誰にでも開かれた、プロの仕事」へと進化した証拠なんだと思う。
「溶接女子」なんて言葉がまだ珍しくて、こうして記事になる。
でも、いつかその言葉さえ消えて、
ただ「いい溶接工だね」とだけ言われる日が来ても、僕は少しも困らない。
当たり前に女性の溶接工がいる時代はもう来ている。
それは、この僕らが愛する泥臭い現場が、
ちゃんと時代と共に、前へ進んだ証拠だからだ。
あ、最後になりますが、僕は女性から丁寧に溶接を教わりたかったです。
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この記事の内容は、現場で長く溶接に関わってきた経験をベースにまとめてるよ。
「この人どんなキャリアなんだろ?」と気になったら、プロフィールで少しだけ覗いてみてね。
