溶接を学ぼうと思ったとき、多くの人がまず気になるのが
- 「ポリテクって何?」
- 「職業訓練校とどう違うの?」
- 「どんなことが学べるの?」
- 「お金かかるの? 生活できる?」
まずはここを知ることが、溶接の世界に入るための最初の一歩になる。
ネットには情報がたくさんあるけど、
現場から見たときの“正しい距離感”が書かれていないことも多い。
だからこの記事では、まず「職業訓練とは何か。その中にどんな種類があるのか」という全体像から入り、そこから
- ポリテクと県立訓練校の違い
- 入校〜修了までの流れ
- 実際に学べること・学べないこと
- お金の話(手当・失業保険)
- 訓練校で取れる資格
- 現場デビューした後のリアル
- そして最後に、溶接の本質
ここまでを、“現場20年以上の職人としての真実だけ” を書いていくよ。
職業訓練とは何か
“職業訓練”と言っても、実は1種類じゃない。
正式には 「ハロートレーニング(職業訓練)」 という国の制度で、その中に
- ポリテク(国が運営)
- 都道府県立の職業訓練校(県が運営)
という2つの系統が存在している。
どちらも「職業訓練」だけど、運営も目的も少し違う。
ポリテク(ポリテクセンター)とは?
- 運営:国(JEED)
- 対象:主に社会人・離職者
- 期間:6ヶ月が多い(短期で再就職)
- 設備が比較的新しくて統一されている
- カリキュラムが全国でほぼ同じ
- 就職支援が手厚い
つまり、
“社会人が再スタートしやすい短期集中型訓練” がポリテク。
都道府県立の「職業訓練校」とは?
- 運営:都道府県
- 対象:社会人+高校卒業したばかりの若者
- 期間:6ヶ月〜2年
- 設備は校ごとに差がある
- 地元企業との結びつきが強い所も多い
- 昔ながらの“実習型”訓練所の雰囲気もある
こちらは “地域密着で、じっくり学ぶタイプ”。
ポリテクと訓練校の違い
| 項目 | ポリテクセンター(国) | 都道府県立訓練校 |
|---|---|---|
| 運営 | 国(JEED) | 都道府県 |
| 対象 | 再就職したい社会人 | 社会人+学卒者 |
| 期間 | 6ヶ月(短期集中) | 6ヶ月〜2年 |
| 設備 | 新しめ・全国同水準 | 校ごとに差が大きい |
| 特色 | 就職が早い・社会人向け | 地域密着・基礎をじっくり |
どっちが上という話ではなく、立ち位置が違うだけ。
基本的には
「ポリテク=短期決戦」「県立校=じっくり型」
というイメージでOK。
ただし県立校にも短期コースはあるから、
「県立=長期」とは限らない点も補足しておきたい。
そして、
溶接コースの“やること”自体はどちらも大きく変わらない。
ここからは、その共通部分を具体的に説明していくね。
訓練校に通う「最大のメリット」──実は“お金”です
技術の話に入る前に、職業訓練には 知らないと損する大事なメリット がある。
これから訓練校を考える人にとってお金と生活の話は避けちゃダメなところ だから、ちゃんと書いておくね。
① 授業料は(ほぼ)無料
職業訓練は公費。
基本的に 授業料は0円。
必要なのは
- テキスト代・保険料 (トータル1〜2万円くらい)
- 作業服・安全靴 (ホームセンターやワークマンなら服と靴で1万円くらいで揃う)
- 交通費 (ただし後述の手当でカバーできることあり)
このくらいと思って大丈夫。
② 失業保険をもらいながら通える
離職中で失業保険を受給している人は、
訓練期間中も給付が延長される。
「給付日数が足りない…」という人でも安心して通える仕組み。
③ 職業訓練受講給付金(条件あり)
失業保険を受け取れない人向けの制度。
条件を満たすと、
- 毎月10万円
- +通所手当
が出る。
生活に余裕が出るので、本気でスキル習得に集中できる。
※受講給付金は「収入・資産・家族構成」の条件が厳しめなので、全員が対象ではないよ。
④ 通所手当・寄宿手当
遠方から通う人や、交通費が大きい場合、
交通費が支給されるケース がある。
さらに寮がある訓練校は、
寄宿手当が出ることもある。
★まとめ
技術を学びつつ、生活の不安を減らせる。
これが職業訓練の“デカすぎるメリット”。
溶接を始めたい初心者にとって、
これは本当に大きい。
訓練校で取れる資格
訓練校のカリキュラムには、現場に入るときに必須になる資格が含まれている。 ここで大事なのが、「技能講習(国家資格)」と「特別教育」の違い。訓練校ならこの両方が取れるのがデカい!
① ガス溶接技能講習(国家資格)
酸素・アセチレンを使うなら絶対必要。 これは「特別教育」よりランクが上の「技能講習」だから、修了するとちゃんとした「免許証(カード)」がもらえる。 一生モノの資格だよ。
② アーク溶接等特別教育
アーク溶接(被覆アーク・半自動・TIG)を扱う業務に就くなら、法律上かならず受講しなきゃいけない教育。 いわば、溶接現場への「入場パスポート」。
③ 自由研削砥石特別教育
グラインダー(サンダー)を扱う上で必須。これがないと仕上げ作業ができないから、地味だけど超重要。
④(校による)その他の特別教育
- 低圧電気取扱業務
- 酸素欠乏危険作業
- フォークリフト運転技能講習(これは技能講習!) などが含まれている校もあるよ。
訓練校のカリキュラムには、
現場に入るときにほぼ必須になる“特別教育”が含まれている。
⑤ JIS溶接技能者評価試験
地域差はあるけど、在学中にJIS検定を受けられる校もある。 種類としては、被覆アーク溶接の「A-2F」、半自動溶接の「SN-2F」、TIG溶接の「TN-F」などの基本級が一般的かな。
ただし、
- 全員が受けるわけではない(希望制や選抜制のことも)
- 検定料は自己負担の場合がある
ここは誤解しないようにね。でも在学中に取れたら就職活動でのアピール力はバツグン!
※JIS試験の仕組みや区分について詳しく知りたい場合は、
こちらの記事にまとめてあるので参考にしてみてね。
▶ JIS溶接技能者評価試験とは?
★資格=現場への“入場券”
これらを訓練校でまとめて取れるのは、
社会人にとって本当にありがたい。
自腹で全部取ろうとすると数万円するし、
時間もかかる。
入校〜修了までの流れ
① 見学(超!重!要!)
まずはここ。
パンフレットじゃ分からない「音・匂い・ヒュームの重さ・火花の飛び方」を、自分の体で感じるステップ。
ここで
- 「うわ…無理だ…」
- 「やば、めっちゃカッコいい」
どっちに転ぶかが最初の分岐点。
悩んでる人ほど見学すべき。
② 申し込み(ハローワーク)
窓口で「溶接を学ぶ訓練に入りたいです」と伝えるだけ。
職業訓練は “就職するための制度” だから、やる気を見せるだけで十分。
証明写真はスーツが無難。
※ただし地域でルールが違うから、ハローワークで一言確認しておくと安心。
③ 選考試験(面接+筆記)
筆記は、中学レベルの国語と計算問題が少し。
ここで落ちる人はほとんどいない。
面接で見られるのは、
- 続けられそうか
- 集団行動できるか
- 安全に気を配れるか
の3つだけ。
倍率が高い地域・人気コースは落ちることもあるので、油断は禁物。
④ 合格発表〜入校式
通知が届いたら、ハローワークで手続き。
入校式ではサイズ合わせや説明が入って、
「いよいよ始まるな」って空気が出てくる。
⑤ 訓練前半(座学・安全・基礎)
最初の1ヶ月は、意外と座学が多い。
- 労働安全衛生法
- 紫外線・ヒュームの危険性
- 溶接の仕組み
- 保護具の使い方
ここが疎かだとマジで危険だから、ちゃんとやる。
実習は
- ガス溶接
- 被覆アーク溶接
などの“基本の基本”から。
この時期は「たのしい!」より「むずい…」が勝つ。
⑥ 訓練中盤(本格実習+資格ラッシュ)
ここから一気に訓練らしくなってくる。
半自動溶接(MAG/CO₂)
バチバチ火花が出て、一番“溶接してる感”が強い。
TIG溶接
最初は絶望するけど、慣れると美しさでハマる。
資格ラッシュ
- ガス溶接
- アーク溶接特別教育
- 自由研削砥石
- 酸欠・特化則関連(校による)
- JIS試験(校による)
※ここは校によって受けられる種類が違うから、見学時に必ず確認すると失敗しない。
⑦ 就職活動(訓練と同時進行)
ここ、本当に重要。
訓練校は“卒業してから仕事探す場所”じゃなくて、
通いながら就職が決まる場所。
後半になると、
- 求人票を見る
- 先生が企業を紹介してくれる
- 工場見学
- 面接
- 企業側からのスカウト
こういう流れが同時進行で動き出す。
今は溶接工不足だから、タイミングが合えば本当に声がかかる。
⑧ 修了・現場デビュー
半年一緒に学んだ仲間と別れて、それぞれの現場へ。
- 基礎技術
- 安全の知識
- 特別教育の修了証
- 半年の濃い実習経験
この4つを武器に、いよいよ本物の現場へ向かう。
訓練校で学べること
訓練校は“安全に基礎を体に入れる場所”。
ここが本質。
① 被覆アークの基礎
- アークスタート
- 電流の考え方
- ビード置き
- T継手
基礎をみっちり。見事な溶接は無理でも溶接の入口として基本が備わってる。
音、光、熱、煙、革手、皮エプロン、マスク、まさにTHE溶接。
② 半自動溶接(MAG/CO₂)
- トーチ角度
- 距離
- 速度
- 下向きフィレット
一番“できてる感”が出るのがコレ。溶け込みとか余盛りとか細かい事抜きなら、初心者でもそこそこの見た目で出来る。家族に「溶接楽しい」って言っちゃうくらい、溶接をしてるって実感できる。
③ TIG溶接
- トーチ操作
- 電極の扱い
- 下向きビード
利き手でトーチ、もう一方の手で溶加棒を入れていく両手作業で最初は絶望的に出来ない。
ところが慣れてくると美しさを感じられる溶接が少し出来るように。そうなったらもう、悪魔的TIGの虜。ハマる。
④ 図面の超基礎
- 寸法
- 溶接記号
- 角度の見方
実際の業務レベルとは別物だけど、知っておけばいずれ職場での知識の入り方が全然違う。
もし、苦手でも頑張りたい。
⑤ 安全教育(ここは訓練校の強み)
- 紫外線
- ヒューム
- 感電
- 火災
- 保護具の選び方
ここは、理由と根拠をセットで教えてくれる。根拠ってすごく大事。
昭和の風情を引き継いでる職場だと根拠を言わず「危ねー」、「触るな」、「言う通りにしてろ」だけで済まされる。
逆に訓練校では学べないこと
これは現場目線で絶対に書いておきたい。
実際の業務で待ち受けるいくつかの困難。
- 上向き・立向きのガチレベル
- 狭い場所の地獄姿勢
- トーチが入らない場所をどう工夫するか
- 溶接後の歪み取り
- 加工・段取り
- 作業のスピード
- 材料の膨張、伸縮のクセを読む経験
訓練校は言ってみれば“プロローグ”、本番は実際の現場に出てから始まる!
ここまで言うと構えちゃうかもだけど、それはそれでゆっくり身につけて行けば良い。
現場デビュー後のリアル(訓練校上がりがつまずきやすい所)
正直なところ、働きはじめではこう見られたり、こう感じる。
- ビードはきれいで作業は丁寧、でも作業が遅い
- 訓練校では前工程(切断・開先・罫書き)は触れないことが多く、ここで戸惑う
- 長時間の無理な姿勢や安定した動きのきつさに驚く
- もうやるしかない環境や下処理不足でのアークの暴れ方に戸惑う
- 扱う部材の重さが想像以上
- アーク棒の残り、半自動のチップ、TIGのタングステンなど、思ってる以上に消耗品を粗末にできない
でもこれは“誰でも通る道”。
ここから経験を積んでいくと、
本当に強い溶接工になる。
訓練校の経験はホント大事。実際に働き出したら、その職場なりの学びもあるって話。
溶接は料理と同じ。“その先へ進むかどうか”は自分次第
溶接って、
レシピ通りにやれば合格ラインには誰でも辿り着ける。
でもその先はまだまだあって、そこまで目指して行くか。
これは誰かに“やらされる”ものじゃない。
自分がその先に行くかどうか。
その選択こそが、まさに『溶接の道』なんだ。
職業訓練校は、その入口として最高の場所。
火花を見て、自分がどう感じるか。
ワクワクするか、怖くて逃げたくなるか。
そこがスタートライン。
溶接を続けるかどうかは、才能じゃなくて“やってみてどう感じるか”だけで決めていい。
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この記事の内容は、現場で長く溶接に関わってきた経験をベースにまとめてるよ。
「この人どんなキャリアなんだろ?」と気になったら、プロフィールで少しだけ覗いてみてね。
