長崎県編|造船と修繕の街に根づく“重構造溶接”の仕事と技術

九州の西端に位置する長崎県は、古くから造船業の街として栄えてきた。戦前から続く大規模な造船所をはじめ、周辺の町工場・協力企業も含めて、地域全体が“船を造り、直す”技術に支えられている。

この記事では、長崎県における溶接の活躍分野や現場特性、作業環境、賃金水準を紹介する。

主に盛んな業種とその背景

造船・ブロック製造(長崎市・佐世保市など)

長崎市や佐世保市では、大手造船所のほか、船体ブロックの製造や艤装工事を行う中小企業が点在。厚板・大物構造物の開先加工、立向・横向のアーク溶接、サブマージアーク溶接などが日常的に行われている。

船体ブロックの組立は、仮付け・本溶接・仕上げ・検査までを複数の職種が連携して行うため、現場対応力と協調性も求められる。

修繕・艤装・機関周りの施工

造船業だけでなく、**定期点検や修繕工事(ドック作業)**も地域の重要な仕事。狭所・高所・逆さ姿勢での溶接や、複雑な配管・機関周辺の補修などもあり、経験者が特に重宝される。

この分野ではTIG溶接とアーク溶接の使い分け、仮設足場上での作業、安全管理対応力などが重要。

港湾施設・防波堤関連の鉄構製作

県内の一部地域では、造船関連の技術を活かして**港湾設備や鋼製構造物(防波堤・橋梁部材など)**の製作も行われている。半自動溶接・手溶接・現場据付後の仕上げ溶接が必要で、港湾工事の下支えとなっている。

地域別 溶接業種マップ

地域主な産業溶接の特徴
長崎市・西彼杵半島造船・ブロック組立厚板・姿勢溶接・サブマージアーク
佐世保市艤装・修繕・機関補修TIG・仮付け・狭所施工
諫早市・大村市鉄構・防波堤・港湾部材半自動・現場仕上げ・補修溶接

現場のリアルと傾向

長崎県の溶接現場は、厚板・構造物・姿勢溶接が中心。屋外作業や港湾ドックでの現場が多く、季節や天候による影響、足場作業の安全対策、複数職種の連携など、“現場力”の高さが求められる。

また、溶接作業者の高齢化が進む一方で、若手の育成が追いついていない地域でもあり、熟練職人の技術継承が重要課題になっている。

長崎県の溶接工の賃金水準は?

厚生労働省の統計によると、長崎県の溶接工(正社員・男性フルタイム)の平均月収は約27.0万円で、全国平均(約29.4万円)よりやや低め。ただし、造船業での経験年数や資格の有無により30万円台後半まで上がるケースもあり、夜勤・出張・短期集中案件では高日給が支払われることもある。

特に高所作業・仮設足場での作業経験がある職人は引き合いが強い。

この地域で働くには

長崎県で活躍するために求められるスキル・資格は以下の通り:

JIS溶接技能者(SA-2F、SA-3H、TN-Pなど)

アーク溶接特別教育、酸欠作業主任者、高所作業車など

造船現場での実務経験(とくに仮付・本溶接・仕上げの連携)

狭所・高所対応能力、安全対策知識

また、一人親方や外注としての働き方も多く、地元の工場と連携して動ける柔軟性も重視される。

おわりに

長崎県は、まさに“船をつくる街”としての歴史と誇りを背負った土地。現場では、海に囲まれた環境のなかで、日々確かな技術と経験が積み重ねられている。溶接という仕事がここでは“精密さ”と“力強さ”の両方を求められる。そんな長崎の現場には、今も変わらず、火花を飛ばしながら働く職人たちの姿がある。